「紫水園」山口県周南市・“Shisuien" Shunan City, Yamaguchi Pref
「紫水園」山口県周南市湯野温泉
湯野温泉は山懐に抱かれた静かで鄙びた温泉地だ。紫水園は昭和から続く老舗で日本庭園があるにもかかわらず手頃な価格で宿泊できる嬉しい旅館だ。玄関を入るとすぐ正面のガラス越しに奥へと長い池庭が出迎えてくれる。池の上には屋根付きの渡り廊下が八つ橋のように折れ曲がって水の上を30mほど奥へと伸びている。チェックインした客たちは清涼な滝音を耳にしながら水の上のプロローグを歩くうちにいつの間にか日常をリセットし癒やしの時間へと誘われていく。紫水園のすべての客室はゆるやかな傾斜地に棚田のように築かれた三段の平地に建てられ、周囲すべてを日本庭園に囲まれその敷地は4000坪、まさに日本庭園の中に宿があるのだ。三段の平地それぞれに作られている庭の趣は異なるが、それらの庭はさながら物語のように水でつながっている。最上段で滝から流れ出た水が短い遣水を経てやがて浅い池となる。その池の中心には一石のみで大小複数の峰をもつ島のように見える自然石の岩島が置かれているので見落とさないでほしい。この池の周囲には松などの植栽がある。池の縁には昭和時代に建設された浴室棟の斜めの柱がならび残念ながら景観はあまり良いとは言えない。この最上段の池の水が滝となって二段目の池に落とされている。最初に見た玄関正面の渡り廊下の池でありここが主庭の位置づけだ。この二段目に土はなく全面が池となっているため上の一段目の植栽の紅葉が枝を差し伸ばして緑景を添えている。主庭としての池の見どころは背景となっている一段目の土を止める石垣を兼ねた豪快な石組みだ。向かって左には滝と巨大な山灯籠を置き客を出迎える最高の景色としている、いっぽう右手にはダイナミックでありつつも音楽的な構成をみせる美しい石組みに加えて穏やかで女性的な山燈籠型の雪見灯籠を添え左の巨大な山灯籠と対としている。鷺よけの釘板が景観を破壊していることには苦言を呈するが、鷺は池の鯉を全滅させかねない捕食者なので仕方ないのかもしれない。またこの池で特筆すべきは一番奥の水面に顔を出す岩島であろう。これは一段目と同じく人的加工のない自然石でありながら、複雑な形状の島に見える名石である。このような石が2つも池庭に置かれている事は大変めずらしい。水石趣味を庭に持ち込んだこのような作例を私はここでしか知らない。
二段目の池庭から流れ出た水は、最後の三段目の庭では遣水となって植栽のあいだを縫うように流れていく。庭は2つに別れ、最初に水が流れ込む右手では遣水をあえて2つにわけ、中洲の周囲をぐるりとめぐらせてから一つに合流させている。次に水は渡り廊下の下を抜けて左手の庭にいたる。こちらでは小さな山燈籠の手前をゆるやかな曲線を描いてフェードアウトするように遣水は庭の外へ消えていく。遣水が消えた先の最下段の客室棟のむこうにも庭があり、正確には庭は四面に分かれているようだ。
さて、紫水園の開業は昭和だが、それ以前から同地には旧国鉄保養所があり庭はその当時のままに受け継がれただものである。旧国鉄保養所がいつ頃から同地にあったのかは不明だが、旅館の人によると旧国鉄保養所の前にも同地に屋敷などがあったかもしれないとのことである。それを物語るように敷地内には天狗が降り立ったと伝えられる「天狗岩」があり、山灯籠の竿にも注連縄がかけられ土地の古い伝承にまつわる由緒を感じさせている。日本庭園はその土地ならではの風土や歴史そして文化と深く融合している。その庭の由緒を知ることはその土地そのものを知ることに通じ、旅の大いなる楽しみともなっている。紫水園の庭は基本的には全国共通の「池泉回遊式&鑑賞式庭園」「流水・遣水鑑賞式庭園」だが、周南地方ならではの風土が庭に独特の個性を与え、鑑賞者の胸にロマンを抱かせるのだ。
紫水園の客室棟はすべて平屋。私が宿泊したのは「富士」。平成前期に建てられた離れ棟の一つで敷地内の一番奥に位置し窓の外には池があり落ち着いた環境。内装も大変素晴らしく、玄関の天井は格天井、廊下の天井の竿縁には吹き寄せの四方竹があしらわれ、主室と次の間の境にある筬欄間のあいだには松竹梅の浮き彫りが嵌め込まれ豪華な設えとなっている。残念なことに紫水園には大浴場はあるが露天風呂はない。しかし部屋の風呂に温泉がしかれておりその湯質は大浴場よりもはるかによい。
湯野温泉がある山口県周南市は広島県宮島の厳島神社や山口県岩国市の錦帯橋に隣接しています。湯野温泉には紫水園の他にも日本庭園がある旅館がありますよ。そちらはまた後日紹介しますのであなたの旅のルート設定の参考にしてください。
■国際観光旅館湯野温泉「紫水園」
■住所: 山口県周南市湯野4341
■TEL : 0834-83-2345
■公式サイト: https://www.shisuien.com
■駐車場 : 有り
■アクセス:
• 山陽新幹線(徳山駅)より車で約25分
• 徳山駅より湯野温泉行きバス利用可能。
• JR山陽本線(戸田駅)より車で約10分。
• 戸田駅より湯野温泉行きバス利用可能。
• 山陽自動車道(徳山西IC)より車で約5分。
• 中国自動車道(徳地IC)より車で約35分。
"Shisuien" Yuno Onsen, Shunan City, Yamaguchi Prefecture
Yuno Onsen is a quiet and rustic hot spring resort in a mountain village. Shisuien is an affordable ryokan with a Japanese garden. As soon as you enter the entrance, you will be greeted by a long pond garden beyond the front glass. Over the pond, a covered passageway extends about 30m above the water. Guests who check-in are invited to reset their daily lives and relax while walking along the corridor above the water while listening to the refreshing sound of the waterfall.
All guest rooms at Shisuien are built on a gentle slope and are surrounded by Japanese gardens. The site is 13,223 square meters, and the inn is located in a Japanese garden.
Before the opening of Shisuien, there was a former national railway resort on the same site, and the garden was inherited as it was at that time. According to the people at the inn, there may have been a mansion of an old family in the area in front of the former national railway resort.
As a testament to this, there is Tengu Rock, where it is said that Tengu, an incarnation of the mountain god, descended from the sky.
The Sao (pillar) of the giant Ymadoro lantern is also lined with shimenawa, giving a sense of the history of this land.
Japanese gardens are deeply integrated with the local climate, history and culture. Knowing the history of the garden leads to knowing the land itself, and it is a great pleasure to travel. The climate unique to the Shunan region gives the garden a unique character and makes the viewer feel romantic.
All guest rooms in Shisuien are one-storied. I stayed at "Fuji". It is one of the outbuildings built in the early Heisei period, and is located in the innermost part of the site. The interior is also very nice, and the water quality of the hot spring in the bath is much better than that of the large public bath.
Shunan City, Yamaguchi Prefecture, where Yuno Onsen is located, is adjacent to Itsukushima Shrine in Miyajima, Hiroshima Prefecture and Kintaikyo Bridge in Iwakuni City, Yamaguchi Prefecture. In addition to Shisuien, Yuno Onsen also has a ryokan with a Japanese garden. I will introduce them at a later date, so please use them as a reference for setting your travel route.
■International tourist ryokan Yuno Onsen "Shisuien"
■ Address: 4341 Yuno, Shunan City, Yamaguchi Prefecture
■TEL: 0834-83-2345
■ Official website: https://www.shisuien.com
■ Access:
• About 25 minutes by car from Sanyo Shinkansen (Tokuyama Station)
• A bus to Yuno Onsen is available from Tokuyama Station.
• About 10 minutes by car from JR Sanyo Main Line (Toda Station).
• Buses to Yuno Onsen are available from Toda Station.
• About 5 minutes by car from Sanyo Expressway (Tokuyama Nishi IC).
• About 35 minutes by car from Chugoku Expressway (Tokuchi IC).
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