「常徳寺庭園」山口県 / ”Jotoku-ji temple's garden” Yamaguchi-pref

「常徳寺庭園」山口県山口市

 常徳寺は山口市の中心から遠く離れた山中にありとても観光に向く環境にはありません。アクセスは車のみで、早朝訪れた私たちの車は朝靄に包まれた水路沿いの狭い参道で猪と遭遇しました。このように辺鄙な場所のため、徒歩か馬でアクセスしていた昔はもっと秘境とも呼べるような土地だったに違いありません。しかし、意外にも常徳寺が開かれた昔、そこは銅山で栄え大勢の人々が暮らす土地だったと言うから驚きです。寺の山号「出銅山」もそれにちなんでいるのです。現在では寺は深い山々に囲まれていますが、その山間には昭和初期頃まで銅山町が残っていたそうで、その痕跡が今も辿れるとか。つまりそんな土地であったからこそ常徳寺が開かれたのです。江戸時代のこの地域の記録を記した古文書によれば「古蹟 雪舟之築庭、常徳寺境内にあり 但年月不詳 今は破壊して築石、池のかたちわずかに残り候」と記録され、雪舟庭の存在が伝説となっていました。とは言え常徳寺の創建が雪舟の死後70年近く経った室町後期から安土桃山期であるため「雪舟作庭説」に関して否定的な意見が多勢を占めていたのです。しかし平成になってから発掘調査が行われ埋もれていた庭園が再び地上に姿を現すと、庭園の作庭年代は間違いなく室町時代であることが判明し、石組みなどに雪舟の作品との強い共通性が認められたのです。よって平成12年、文化庁により国名勝指定を受ける運びとなりました。常徳寺が創建される以前にすでに庵などがあり庭があった可能性が高くなったのです。

発掘を終えて庭の復元が始められた当初は土がむき出しの状態で庭木もなく石組みだけの状態で、マニア向けの庭といった雰囲気でしたが、令和元年末に再訪した際には赤土の上に芝生がはられ、池には水が流れ込み、周辺は散策路が整備されベンチやトイレなども整備されていました。そして令和5年現在、島の中央には松が植えられ徐々に庭園らしさが蘇りつつあります。

 常徳寺庭園は「池泉=前景」「天然の岩盤=中景」「山の自然=後景(借景)」以上の3景で構成されていた庭園です。そしてそれぞれが大きな特徴を持っています。

まず前景である池泉に関しては、池とその中心にうかぶ中島がどちらも三角形に近いプランとなっています。個人的にはアオウミガメの甲羅のように見えるのですが、島は蓬莱島に見立てられており、島の護岸に置かれている石には亀を表現する役石があるのかもしれません。また本堂がある西側から池をのぞむと池も島も三角形の底辺側となり後ろの2辺が交わる頂点に向けて人為的なパースが生まれ奥行きが強調されます。また島の景石群も西側に大きめのものが集められており、これは明らかに遠近法を狙った演出がなされていると見るべきでしょう。

次の中景では滝石組が天然の岩盤を削り出したものであることが大きな特徴です。さらに岩盤の右裾では大岩を組み合わせて滝口として鑓水をつくっていることも他に例を見ない大きな特徴です。このような大規模な土木工事ができたのは、銅山の働き手であった掘削技術をもった炭鉱夫たちの存在ゆえでしょうか。また、常徳寺より小規模ですが明朝留学から帰国し山口に帰る前に数年滞在した九州で雪舟が作ったと伝えられている「藤江氏魚楽園」にも天然岩盤削り出しの滝石組があり前例として位置づけられるかもしれません。

最後の後景では、滝の遣水上流にある鍾乳洞「こうもり穴」の霊水と位置づけられている湧水を引き入れていることも大きな特徴で、これは他に例を見ません。さらに庭園の背後は山裾が左右にたなびくように重なり合って後退していますが、往時はその一番奥に林立する石灰岩の岩峰と、その岩肌を流れ落ちる一筋の滝「地蔵の滝」が見えていました。(現在は植林された杉木立に遮られ見ることはできない)

このように風光明媚で豊かな水に恵まれた環境であれば常徳寺の創建以前すでに蟄居人の庵などがあった可能性は充分あります。それを裏付けるように寺の境内には鎌倉時代の石造物も残されています。またこの庭園の石組に関しては、石を垂直に構成しながらも鋭く立ち上がるような高さのある立石はなく多くの石がほぼ同じ高さの箱型に近い形状をし水平の石をアクセントとして構成していること(「地蔵の滝」で林立する岩峰とのバランスを考慮したものと思われる)しかも銘石揃いです。重ねかけるような石の組み方や、長い石を水平に積んで護岸としている点など、雪舟作庭法の特徴を多く示しています。島の形については雪舟四大庭園の一つ「医光寺庭園」の池に浮かぶ中島によく似ており、さらに同じ山口市内で近年発掘復元された雪舟作庭の可能性が浮上している「大内氏館跡庭園・2号庭園・池泉庭園」の中島との類似性も認められます。

さて、ここからがいよいよ興味深い内容となります。常徳寺庭園を眺めるとき、既視感を覚える人もおられるのではないでしょうか。実はこの庭は多くの人が学校の美術の教科書で見たことがある国宝・雪舟作「秋冬山水図」の「冬景図」の構図にとても良く似ているのです。冬景図の前景には、水と石が、中景には荒々しい岩山が、後景には林立する白い岩峰がそれぞれ描かれていますが、それはそのまま前述した常徳寺庭園の3景と置き換えることができるのです。現在、後景は木々に埋もれていますが雪舟の時代には石灰岩の岩峰がそそり立ち、銅山町があって家もあったことは前記したとおりです。つまり冬景図とそっくりの風景だったのです。今まで雪舟の絵画作品との関連性が指摘された現実の庭園や風景は存在していませんでした。これはまさに世紀の大発見と言えるのです。実はこれに加えて驚くべきことがもう一つあるのです。常徳寺庭園の池の水源である「こうもり穴」には鍾乳石の下に座禅石があり隠者の瞑想の場であったと伝えられていますが、その内部の様子が雪舟作『慧可断臂図」(えかだんびず・1496・国宝)と酷似しているのです。つまり、常徳寺庭園は、一つならずも2つまでも雪舟の絵画作品との関連性が指摘される歴史的に価値の高い庭園なのです。

◼︎名称:「常徳寺庭園」

◼︎住所:山口県山口市阿東蔵目喜1498

◼︎TEL:

◼︎拝観料:無料

◼︎公開時間:24時間 庭園は深い山の中にあり鹿や猪など野生動物も多く出没する場所です。日中の明るい時間に見学しましょう。

◼︎休館日:無し

◼︎駐車場:数台有り(無料)寺へ向かう道は狭いため大型車での訪問はお勧めしません。

”Jotoku-ji temple's garden” Yamaguchi-pref

Jotoku-ji temple is located in the remote mountain far away from the center of Yamaguchi city. Ax means only cars. When I visited, I encountered a wild boar with a narrow mountain road. There was a record that the garden made by Sesshu was buried in this temple. But it was believed to be a lie, because the creation of the temple is after the Sesshu died. However, in recent years, when excavating the inside of the temple premises, a garden with much in common with Sesshu style was confirmed. In other words, there is a possibility that there was a garden in the place before the temple was founded. The stones in the garden are very edgy and they are just like Sesshu. Behind the pond there is a waterfall stone using natural bedrock, behind which the mountain hem overlaps right and left and is musical. A rainfall falls down in the innermost mountain, and its location seems to be a small Shangri - La. (Currently, the waterfall is obstructed by the planted cedar trees). Triangularly shaped ponds and islands are very rare. Currently the garden tree is lost and the red soil is exposed. However, I believe that this garden with many characteristics of Sesshu is worth visiting.

◼︎Name: “Jotokuji Garden”

◼︎Address: 1498 Ato Kurameki, Yamaguchi City, Yamaguchi Prefecture

◼︎TEL:

◼︎Admission fee: Free

◼︎Opening hours: 24 hours The garden is located deep in the mountains and is a place where many wild animals such as deer and wild boars can be seen. Visit during bright daylight hours.

◼︎Closed days: None

◼︎Parking: Several spaces available (free) The road leading to the temple is narrow, so we do not recommend visiting in large vehicles.

日本庭園       The japanese gardens

九州と中国地方の日本庭園を中心に紹介するサイトです。 This site introduces Japanese gardens in the Kyushu and Chugoku regions of western Japan with beautiful photographs and explanations in Japanese and English.

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